■ ある日の野宿 ■
ごくたまに、野宿をすることがある。
理由は大体、日が暮れてしまったか、体力的に厳しく街まで戻れないかのどちらかだ。
ちなみに、今日の野宿の理由は前者である。
「あれ?レッドはまだご飯食べるの?」
肉を串に刺して火にかけていたレッドに、ノアが尋ねた。
「いや、これは保存用のを作ってるんだ。こうやって作っておいたら、数日は食べられるからさ」
普段なら四人で食べきってしまう、主に食べるのはレッドなのだが、晩ご飯にと狩ってきたシシが思いのほか大物で、余ってしまったのだ。
炙る肉から脂が落ち、炎が大きく揺れる。
「レッドさん、ノアさん、お茶が入りましたよ」
「お、ありがとう」
ルシオは二人に、お茶の入ったカップを手渡した。
ルシオが自分で茶葉をブレンドしたものらしい、味と香りのバランスがすごく良い。
そのままでも充分美味しいが、ノアはミルクをたっぷり入れる。
最初はそんなの邪道だ、とルシオにしては珍しく怒っていたが、最近は諦めたらしい。
今は開き直って、ミルクに合う茶葉の調合を模索しているようだが、問題はノアがその違いに気付けるかどうか、だ。
「カーティスさんの分は、ここに置いておきますね」
ルシオは銃の調整で手が離せそうにないカーティスの側に、カップを置いた。
「ああ、すまないな」
カーティスは調整の手を休め銃を置くと、汚れた手袋を外してカップを手にとった。
「ねえ、見て見て!すっごくお星様がよく見えるよ!」
ノアが夜空を見上げて、目を輝かせた。
「今日は新月だし、街灯りもないからよく見えるんだな」
焼いた肉を笹の葉に乗せながら、レッドも空を見上げた。
「天気も良いし、天輪もはっきり見えるな」
夜空には星だけではなく、薄い帯状の光が空を分けるように伸び、輝いていた。
天輪と呼ばれるそれは、空が明るいと見えないため、この日のような天気の良い新月の夜でないと見ることができない。
「一説では、天輪は膨大な生命エネルギーの塊だといわれてるんですよ」
自分のお茶を飲みながら、ルシオが言った。
「輪から全ての命は生まれ、死すれば魂はあの輪に還る。聖堂会の経典にもそう記されている」
「全てって、犬さんや猫さん、鳥さんや虫さんも?」
「魚も木も草も、善人も悪人も、さっき焼かれたシシもな」
カーティスは焚き火の炎に炙られている、残りの肉を見た。
「……死んだのに、輪に入らない奴って、いるのかな」
炎をぼんやりと見つめていたレッドが、ぽつりと呟いた。
「あ、いや……ほら、ユウレイとかそういうの、それならいないはずだろ?」
「レッドゆーれい苦手だもんねー」
ノアがクスクスと笑い、レッドは少し照れくさそうに、カップのお茶を一気に飲み干した。
「……いつかは、未練が無くなったり、やるべき事を終えれば、そんな魂達も帰れるんじゃないか? まあ、俺の推測だがな」
「そっか……そうだといいな……」
カーティスの言葉を聞いて、少し安心したようにレッドは空に光る輪を見上げた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
リクエストいただいた、野宿中のお話でした。
時系列的には多分6〜7話の間くらい。
大体レッドはなんか食べてたり、ノアは歌を歌ってたり、ルシオはお茶を入れて本を読んでたり、
カーティスは武器の手入れをしていたり。
何かそんな感じでまったりしつつ過ごしてます。
|
|