■ テイルズテイル ■
全くの想定外だった。
俺の目の前にいる女は、不思議そうに俺を見ている。
「……すまん、もう一回確認するが、お前が『奇跡の妙薬』だってのか?」
「はい!」
暗い部屋で月明かりに照らされ、女は満面の笑顔で答えた。
俺は盗賊だ。
世間では長い赤毛を束ねた後ろ姿から、レッドテイルと悪名高く呼ばれている。
今俺がいるのは、聖堂会の総本山である馬鹿でかい教会内。
こんなものを建てる為に、どれくらいの布施をかき集めたのか。
そんな警備も厳しいだろう場所にわざわざ乗り込んだ理由、それは、どんな怪我も治してしまうという秘蔵の薬、『奇跡の妙薬』と呼ばれるものがあると噂に聞いたからだった。
もちろん、盗み出して聖堂会の奴らに一泡ふかせてやろうと思っての事だ。
それがどうだ、見つけたと思ったらその正体がこれだと?
「他にも『聖女様』や『キセキの姫』なんて呼ばれたりしていますよ」
女はご親切に、笑顔でそう教えてくれた。
まさか『奇跡の妙薬』が人間の、それも女だったなんて誰が想像できただろうか?
少なくとも、俺には想像できなかった。
「あなた、聖堂会の人ではないですよね? ……もしかして、外から来られたのですか?」
そう聞かれて、一瞬どきりとした。
「そうだ、俺は外から来た。お前に会いにな」
あながち嘘ではないはずだ。
バカ正直に、お前を盗みに来たとはさすがに言えるわけがない。
「まあ、それではあなた、怪我をなさっていたのですね! 大丈夫、すぐに治して差し上げます」
ずい、と女は俺に近付いた。顔が口付けできそうなくらい近くにある。
「いや、俺は怪我してねぇよ」
そう言って、俺は彼女の腕を引いて抱き寄せた。
「お前に会いに来た、ってのはそのままの言葉の意味だ」
女はきょとんとした顔で、俺の顔を見上げている。
推測だが、こいつに会いに来る奴はみんな怪我を治してもらいに来る連中ばかりなのだろう。
貴族や金持ちの、偉い連中だけが、その恩恵を受けることができているのだ。
何か、そう思うと腹が立ってきた。
「なあ、あんた知ってるか? 外にはあんたがここで治してきた怪我人達よりも、もっとデカい怪我して苦しんでる奴がいるんだぜ?」
「まぁ、それは本当ですか?」
思った通り、女は話に食いついた。
この女にとって、怪我を治すことは自分の存在意義そのものに値するようだ。
「どうだ? 俺と外に行って、その怪我人達を助けに行かないか?」
もちろん嘘だ。
ただ忌々しい聖堂会の権利者や金持ち達に、一泡吹かせたいだけだ。
こんな奴はどうでもいいが、売り飛ばせばおそらく大金に化けるだろう。あとはどうなろうが知ったことじゃない。
「はい……はい! 私あなたと行きます!」
女は目を輝かせて俺を見ている。
これっぽっちも俺を疑ってはいにいのだろう。バカな奴だ。
「よし、それじゃあ決まりだ。行くぞ」
俺は立ち上がり、女の腕を引いた。
「え、今から行くのですか?」
「ああ、そうゆっくりもしていられないからな」
もうすぐ見回りの奴が来る時間だ。見つかる前に出なければ。
「……ええと、あなたのお名前を聞いてませんでしたね、何とお呼びすれば良いですか?」
「ロード、エース、ジャク、グレン、シド、ベント……みんな好きに呼んでるから、あんたも適当に呼べばいい」
俺は投げやりに言った。名前なんてどうでもいい。
本当の名前は別にあるが、誰かに教えようと思った事は一度もない。
「えーと……それでは、レッドはどうでしょう? あなたの目も髪も、とても綺麗な赤色ですもの」
「うん、いいんじゃね?」
何とも安直な名前だ。
変な呼び方されるよりかは、まぁ幾分かマシだが。
「私の名前はレーナリア・ミリス・ルーン・セルフィ――」
「長ぇ、レーナでいいな」
長い名前は覚える気にもならない。俺は勝手に呼び方を決めた。
「レーナ……はい! レーナという呼び方、とても素敵です!」
女、レーナは嬉しそうに、一層目を輝かせた。
ああ、やっぱりこいつは馬鹿だ。単純で助かる。
「それじゃあ行くぞ」
「はい!」
返事をすると、レーナは俺の手を両手でぎゅっと握った。
その手は何だか妙に温かかった。
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スピンオフで書きたいお話その2。
DGプレイされた方はピンと来たかと思いますが、おっさん昔話です。
若おっさん(変な呼び方)は、他人は裏切るもの・騙すもの・殺すものが基本の
超鬼畜外道だったんだけど、レーナとの出会いで色々人間丸くなるんだヨって事です。
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